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認知予備力研究センター開設にあたり

超高齢社会

世界保健機構(WHO)は65歳以上高齢者が人口の7%を超えると高齢化社会(Aging Society)、14%を超えると高齢社会(Aged Society)と呼ぶことを提唱していますが、わが国は2007年に65歳以上人口が21%を超え「超高齢社会」と呼ばれるようになりました。
わが国は、社会の高齢化という観点からいうと、平均寿命、高齢者比率、後期高齢者比率、高齢化社会から高齢社会へ最速での移行など、いずれの指標で見ても世界のトップランナーということができます。

一方、わが国人口は、出生数減少のために減少しており、現在約1億2千万人(2018年)の総人口は2045年には1億642万人になります。
東京だけは0.7%の人口増加ですが、東京以外の全ての46道府県で減少することが予想されています。人口減少の大きな県の順番は、秋田県(-41.2%)、青森県(-37.0%)、山形県(-31.6%)、高知県(-31.6%)、福島県(-31.3%)であり、東京一極集中に歯止めがかかりそうにありません。このようなことから65歳以上の高齢者が人口に占める割合は、2045年に全都道府県で30%を超えます。
今後は、大都市圏と沖縄で高齢者が増加していき、東京、神奈川、沖縄では2045年には2015年と比較して1.3倍以上となります。
2045年の高齢化率の全国平均は36.8%であり、秋田県では50.1%となり、都道府県では初めて高齢者が二人に一人以上の県となります。大阪府の高齢化率は、2015年の26.2%から2045年には36.2まで10%増加します。

高齢者の特徴

高齢者の最大の特徴は個人差が大きいことです。人は、同じような赤ん坊としてこの世に生まれ落ちますが、それぞれの家庭、教育、仕事を体験しながら人生を生きていきます。
高齢期を迎える時までの異なる生物的・心理的・社会的要因の結果として、高齢期の個体差はずいぶん大きくなります。

このような高齢者の多様性を考えると、高齢者を正常か病気かと単純に二分類することはできません。実際の高齢者は、「通常の老化」から「成功した老化」までの幅広いスペクトラムに位置づけられることになりますが、望ましい高齢者を表す用語として「サクセスフル・エイジング」が提唱されています。

サクセスフル・エイジング

サクセスフル・エイジングの要件として、(a)身体の健康、(b)正常な認知機能、(c)人生の満足(ウェルビーイング)、(d)社会活動があげられます。(a)は身体的疾患にかからないことであり、もっとも基本的な要件です。また(b)認知機能が維持されていることも重要な要件であり、心と体が健康であり、認知機能が維持されていることが、(c)人生の満足や(d)社会活動には必要と考えられてきました。

認知症の防御因子

認知症の防御因子(resilience factor)として下の表に示すような社会活動、運動、食事など数多くのことが言われてきていますが、こられのうちのいくつかは、アルツハイマー病理を防御するというよりも、アルツハイマー病理に拮抗して認知機能低下を来さない認知予備力を高めるのに役立っているものも多いと考えられます。

認知症の防御因子(resilience factor)

社会活動 運動 食事
高い教育歴 有酸素運動 地中海食
刺激的な
仕事
散歩 緑黄色野菜
精神機能を
活性化する
趣味
指先の運動 カロリー制限
脳トレー
ニング
昼寝 ポリフェノール
社会的交流   不飽和脂肪酸
(ω6,ω3)

アンサクセスフル・エイジング

「不成功の老化」の代表は認知症(dementia)でしょう。認知症はさまざまな社会的機能の障害を意味しており、サクセスフル・エイジングの対極にあります。DSM-5では認知機能について、(複雑な)注意力、実行機能、記憶・学習機能、言語機能、知覚・運動機能、社会認知機能の6つの領域を規定していますが、これらの認知機能を構成する6領域は、同時に低下するものではなく、患者ごとに異なる領域の機能がさまざまの程度に低下しており、認知機能低下によりもたらされる症状には多様性があります。
そして、認知症患者の認知機能低下は人生の満足度を低下させ、さらには社会活動や社会的生産性を損なうことになります。

認知予備力を高める因子として、社会活動、運動、食事などが重要とされていますが、ここでは社会活動について考えてみたいと思います。社会活動はサクセスフル・エイジングの重要な要件であることは言うまでもありません。
高齢者が身体的に健康であり、認知機能が正常であることをベースとして、ウェルビーイング(個人的生活のQOL)があり、さらに社会的役割意識とその達成感が加わることにより、社会活動・社会的生産性が達せられます。
これまではサクセスフル・エイジングは図の左に示すように、認知機能が正常であり、個人的生活が充実(ウェルビーイング)していることが、社会活動の必要条件になると考えられていましたが、私たちは、認知機能とウェルビーイング、社会的役割は、お互いに影響し合っていると考えています。

旧モデルと新モデル

認知予備力を高めるために

一般的な高齢者における認知機能低下の様子をみると、機能低下が早くから始まる場合には、その低下速度は比較的ゆっくりであり、認知予備力が高い人ではある程度までは機能低下に抵抗してその機能低下を防御できることが考えられます。
しかしながら高い認知予備力を有する人でも、いったん機能低下が始まると認知機能は急速に低下してしまいますす。別の言葉で言うと、認知予備力とは、認知機能低下の始まりの時期を遅らすもとも言えます。
そして、認知予備力を高めるためには、運動と社会活動が重要であることを指摘しておきたいと思います。

高齢者となっても働き続けることは心身に良い影響を及ぼすと古くから考えられてきましたが、実際にフランス人についての研究では、60歳で退職すると65歳まで仕事を続ける場合と比較して認知症のリスクが15%高くなることが報告されています。
仕事を続けることが認知機能と社会機能に良い影響を及ぼすことが示されており、仕事による社会活動と社会生産性が認知予備力を高めることに役立つことを示す報告と考えられます。

ウェルビーイングと社会活動は認知予備力を高めることにより、高齢者の認知機能維持に役立っているものと考えられ、体調に問題がない限り70歳以降も働き続けて健康増進と長寿を目指すことが可能であることを報告されています。
毎日の活動、脳への刺激、他人との交流は、認知予備力を高めるライフスタイルでしょう。

生涯活躍のまちを目指して

政府は日本版CCRC(Continuing Care Retirement Community)の推進を図っていますが、これは、移住した高齢者が社会活動に参加しながら暮らし、医療や介護サービスも受けられる地域を作り上げようという構想です。
認知予備力研究センターは、関連する医療介護福祉施設、地域、貝塚市と力を合わせて、「生涯活躍のまち」を目指して、活動していきたいと思っています。